コレだ―
コレこそ俺の求めていたモノだ。
シンプルな―けれど独特なデザイン。
見た瞬間、アイツに一番似合うと感じた。
こういうのはフィーリングが大事だと言う。
だから―俺は手を伸ばした。

だが―そう思ったのは俺だけじゃないらしい。
まさか奴がこんな所に居るとは―

「「・・・テメッ。何でこんな所に居やがる!」」

 

 

 

 

One for Everything


 

 

 

 

そろそろかな―
快斗は隣に座る彼女の姿を見てボンヤリそう思った。
出会ってもう何年経つだろう。
はじめはいつも傍に居るただの幼馴染―だった。
けれど年を取るにつれて感情が変化し、こうして―めでたく彼女彼氏の関係になれてから数年。
客観的に見たら長い―と言われるのだろうが、そんな風に感じたことは無い。
寧ろ―新しい彼女を知ったり。
一緒に成長しているコトを感じたり。
常に二倍の喜びがあった。
けれどソレはコイツだから出来たコト。
そう思うと―らしくもなく感動を覚える。
そうして―快斗は急にふと思ったのだ。
『コイツとなら一緒にやってけるかも知れない。』
特に理由なんて無い。
直感だ。
今まで感じたコトの無いソレ―
けれど今確かに感じた、ソレ。

「・・・快斗?どうしたの?」

サラサラと髪を靡かせて近付いてくる彼女に唇だけで笑い、
何でも無い―
と答える。
本当は凄い心の変化が訪れていたのだけれど。
今は胸に仕舞い込んで快斗は彼女の手を取った。

 

 

 

 

 

 

起きた瞬間胸に湧いた想い。
こんな日々が―続いてもいいかも知れない。
すーすーと隣で眠る彼女を見てそう思った。
帰ってきたら彼女のご飯を食べてゆっくり過ごす。
これまでに何度も―自分の擦り切れた心を癒してくれた彼女がずっと傍に居てくれるコト。
そんな日々はきっと最高になる―という確信が突然生まれた。
いや、これまでにそういうコトを考えたコトはあった。
けれど何処か現実感の無いソレに躊躇してばかりだった。
急激な変化がいつかは訪れるのだろうと思っていたのだが。
結局訪れたのは日々の連続を願う―緩慢とした―けれど日々重なる―そんな想い。
素直に従うコトの出来る純粋な欲求。
彼女の髪を撫でる。
頬がピクリと動く。
ふわり、と髪が揺らいだ。
そして―眸がゆっくり開いていく。

「・・・蘭。」
「―・・・ん・・・しんいち・・・?」

何処かまだ寝惚けた声。
いつも通りなのに、いつも通りじゃない。
新しい感情が湧き出る。
愛しいとか、そんな脆いモノではなくて―
もっと強い想い。

外からチュチュチュ、と鳥の囀りが聞こえた。

 

 

 

 

 

 

そして―
彼等は暇を見つけてはアクセサリーショップを漁り始めた。
勿論互いの事情など知る筈も無い。
見事かち合ったのも―偶然か。
はたまた必然か。

「・・・おい、手離せ。コレは俺のだ。」
「何を抜け抜けと・・・。悪いけど―コレはアイツのモノ―って決まってたんだよ。」
「何だと?」
「俺が昔してた商売知ってるよなあ?」
「テメ・・・だから何だってんだ、コラ。」

周囲に居た客が険悪な雰囲気の二人を避け、離れていく。
二人は気にする風でも無く互いに睨み合う。
コソコソと後ろで冷やかしの声が掛かるが無視。
そんなモノに構って居られない―

「お、お客様―あの。」

気の弱そうな―いかにも新人っぽい男の店員が不穏な空気を感じ取ったのか近付いてきた。
新一がそちらに冷たい視線を向ける。
途端ヒイイッと声にならぬ悲鳴を上げ、店員は一歩後ろに下がった。

「すみませんが、放って置いてくれませんか。これは僕と彼の問題なので。」

サラリ―
駄目押しの一言。
店員は逃げる様にその場を離れ店長を呼びに行く。
けれど店員は知っていた―
―その指輪がこの世に一つしかないデザインであることを。
例え店長であろうとこの事態を収拾出来るのか―
彼には解る筈も無かった。

 

 

 

 

 

 

「これ―可愛い。」
「あ、ホントだ。蘭ちゃんに良く合う!」
「これはどっちかって言うと青子ちゃん向けなデザインじゃない?」

澄んだ色で飾られたチョーカーを手渡す。
鏡の前でう〜んと唸る青子を見つめながら蘭はクスリと微笑んだ。
最近頓に大人っぽくなった青子に似合うのはそれでも矢張り澄んだ色―
青子の心を映した様な色。

「凄く可愛いけど・・・う〜ん、でもこれ結婚式で着ていく服と合うかなあ。」
「どんな服だっけ?」
「えっとね。薄い色合いでグラデーションっぽい感じの―」
「あ、それならもうちょっとハッキリした色の方がいいかも。」

キョロキョロと辺りを見渡す。
色別に場所分けされているらしく、恐らくハッキリとした色合いのモノは後方に在る筈―
蘭はカツンとヒールを響かせてターンした。
と―見知った顔が二つ眼に入る。

「・・・。」
「蘭ちゃん?どうしたの―ってあれ・・・。」
「・・・。」

蘭の顔がヒクヒクと引き攣った。

 

 

 

 

 

 

二人の間に流れる不穏な空気―
鋭いナイフが二人の周りを覆っている様で誰も近寄るコトが出来ない。
店長も最後は涙目になって懇願したのだが、結局新一の言葉に怯えて腰を抜かしてしまった。

「―で。どうする?」
「お前が引かないならすることは一つだろ。」
「・・・正気か。」
「正気じゃないなら何だってんだよ。」
「お前―辞めたんじゃなかったか。」
「俺の中では生き続けてるぜ?」

新一は厭そうに眉を潜める。
これだから―侮れない。
正気―と言って来たからには本気で来るだろう。
そう―最終手段で。
つまり、盗るつもりなのだ。
辞めてから数年は経過している筈だが―果たして快斗が何処まで遣れるのか検討が付かない。
それは探偵にとっては致命的な欠陥。
快斗は新一の遣り方を知っている。
常日頃から傍に居て見ているからだ。
けれど新一は快斗の仕事に久しく関わっていない。
どちらが有利、と聞かれれば快斗―というのが明確な事実の様に新一には感じられた。

「―厭そうだな。」
「言ってろ。」

強がってはみたものの、新一の胸に不安が過ぎる。
しかし―コレは矢張り欲しい。
コレ以上のモノは一箇月程歩き回ったが見つからなかった。
だから引く訳にはいかない。

「・・・解った。予告は―キチンとしろよ。」
「―俺はそんな野暮じゃないぜ?一日だけ復活祭として―派手に暴れてやるよ。」
「へえ。快斗。また遣るんだ。」
「おう!俺は負けねえ―って、え。」

急に快斗の言葉が途切れた。
不審に思い顔を上げた新一の眸に青子の姿が映って、新一は思わず叫び声を上げそうになる。
更に―

「・・・成る程ね。それで―それに乗っちゃうわけ、新一は。」
「おわわわッ!蘭!!」

いつから居たのか―
話に夢中になっていたから全然気付かなかった。
かなり怒っている所を見ると―どうやら『勝負』の話は聞かれてしまったらしい。

「・・・ホントにもう・・・何を争ってって―・・・コレ?」
「わあ、綺麗な指輪だね。」

蘭と青子の顔が少し緩む。
矢張り―二人共気に入ったらしい。
快斗のバツが悪そうな顔を見て、新一は恐らく自分も同じ表情をしているんだろう―と意味の無い想像をする。

「でも私コッチのがいいな。」
「―?」
「あ、私はコッチの方が―好きかも。」
「―ッ!」

衝撃が二人を駆け巡る。
蘭と青子はそれぞれ気に入った指輪を付け、笑い合っていた。
新一は快斗と視線を合わせる。
快斗は一瞬困惑した素振りを見せたが、首を竦めると青子に近付いて行った。
どうやらその指輪を見に行ったらしい。
お前こんなのが好きなのか―そうだよ―
そんな会話が耳に届いて、新一は大きく溜息を付いた。

「新一はどう思う?」
「え?」
「あんまりいいデザインじゃないかな?」
「え?あ、ああ―いいんじゃねえの?」

嵌められているのは確かに蘭が好みそうな控え目なタイプ。
しかしアレよりは全然値も張らないし、何より『唯一』じゃない―
そう言おうとしたのだが、蘭が先に口を開いた。

「ねえ、新一―何考えてるか知らないけど、新一がくれるモノは全部私にとって唯一のモノなんだよ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

完璧―見透かされている。
何故か蘭の優しい微笑みを直視出来ず新一は視線を逸らした。

「ね、新一。今日少し見て廻ろうか、今から。」
「は?いや、でも―」
「・・・くれるつもり―なんでしょう?一緒に選びに行こう?」

青子ちゃんも快斗君と出掛けるみたいだから―
そう言って蘭が後方を指差す。
ソチラに視線を移すと、確かに二人が揃って店から出て行く様子が見えた。
・・・全部お見通しってコトか。

「―・・・ま、いいか。」
「うん!じゃあ出る?それとも―」
「・・・その前に。」

蘭の腕を引っ張る。

「―コレが先。」

軽く唇に触れる。

「・・・もう・・・。」

頬を膨らませた蘭に新一は苦笑を零す。
ああ、やっぱり―こんな日常。
過ごして行きたいと―新一は心から思った。

 

 

 

 

 

先程昂ぶった熱が急激に醒めていく―
快斗は外に出た瞬間吹いた風に一度眸を閉じて最後の熱を取り払った。

「で?お前どっかいい店とか知ってるわけ?」
「ねえ、快斗。」
「あん?」

クルリ
先を歩いていた青子が振り返る。
―少しだけ頬を膨らませて。

「・・・青子。もしかして―怒ってる?」
「怒ってない―けど。」
「じゃあ何なんだよ?」
「ねえ快斗。あんなコト―もう言わないで。」
「あんなコト?」

あんなコトと言われても―何か言っただろうか。
回想してみる。
―と思いついた台詞が一つ。

・・・言ったな。

快斗は内心で自分を責めた。
言うべきじゃなかった―
けれどあの時―新一も自分も本気だった。
もし本当に勝負するコトになったら。
青子は絶対に傷つく。

「・・・悪かった。」
「―ううん。謝って欲しいわけじゃないの。でもそんな単純なコトで―簡単に、・・・覆さないで。」

―信念を。
快斗は眼を瞠った。
同時に後悔が襲う。
快斗は、ただ顔を俯けることしか出来なかった。
青子の顔を見ることが―今は出来そうに無い。

「快斗ッ!」
「おわッ!」

青子がイキナリ顔を覗き込んできた。
驚いて快斗は一歩後方に下がる。

「な、何だよ。」
「―ね、行こうよ。お店閉まっちゃうから。」

手を絡んできた青子に快斗は少しだけ驚いて。
―けれど伝わる優しさが嬉しくて。
もっと近くに―ソレを感じたくて。
快斗は青子の手を強く引っ張る。

「きゃっ。」

快斗の胸に青子がポスンと収まった。
微かな抵抗は直ぐに止んだが、青子は頬を膨らませたまま。
苦笑して快斗は青子の耳元に囁いた。

「サンキュ。」
「もう〜ズルイ・・・。」

―そんなコト言われたら離れられなくなっちゃうよ?
―いいじゃん。離れないで。
心の会話に―二人はオデコを合わせて微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

「あ、青子ちゃん?」
『あ、蘭ちゃん―今日は良かったね、上手くまとまって・・・。』
「うん―良かったね、打ち合わせ通りに行って。」
『でもあの指輪―素敵だったなあ。』
「あ、青子ちゃんもそう思う?」
『うん―あ、ゴメンね。』
「ううん、私もそう思ってたから・・・あ―いい考えがあるんだけど。」
『―え?』
「こんなの―どうかな。」

蘭の提案で彼女達は二人で指輪を買った。
それが―彼女達の子どもに引き継がれていくのは、もう少し先の話。

 

 

 

 

 

 


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
び、微妙・・・・。
リクエスト通りになっていない気がするのは気のせいですか?
ああああ、もうごめんなさい〜
私の筆力と想像力ではこんなんが限界でした。
じゅんぱちさん、楽しんで頂けたでしょうか?
・・・はうわ、ただひたすら祈るしか出来ません・・・。

20030318